フリーな くずライフ

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災害時の被害拡大の要因にも 空き家増の対策には技術革新が必要

 将来にわたって安心・安全に住み続けられるまちづくりを考える上で、住宅事情について取材を進めています。まちの住宅事情が今後どうあるべきかを考えることは言うまでもなく大切な問題。

 取材を進める中で今回は、空き家が増えている深刻な問題についてまとめるほか、後半では古い住宅の除去が進まない問題について、住宅の除去を手がける解体業者を訪ね、その理由を探ります。そこから見えてきたのは、空き家が減らない意外な理由と未来についての模索です。

 地方自治体で空き家問題が顕在化

 まちを見渡すと「ここにも新しい住宅が建つのか。」「この辺りは新築の住宅が多いな。」と新しい住宅地が目に入りますが、同時に、人が住まなくなった古い空き家も顕著に目立ちはじめています。

 総務省統計局の「平成25年住宅・土地統計調査」によりますと、総住宅数は6063万戸で平成20年の調査時に比べて305万戸(5.3%)増加。空き家数は820万戸と、5年の間に63万戸(8.3%)も増加していました。 総住宅数に占める空き家の割合「空き家率」は13.5%にもなり過去最高となっています。 

 

www.stat.go.jp

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出典:平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約

http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/10_1.html

 

 また、野村総合研究所が2017年6月に発表した市場予測では、2033年の空き家数は約2166万戸。空き家率では30.4%にもなる見通しを示しています。

https://www.nri.com/jp/event/mediaforum/2017/pdf/forum254.pdf

出典:‹2017年度版› 2030年の住宅市場 ~空き家率の抑制に向けて 株式会社野村総合研究所

 

 空き家が増えれば、それだけ犯罪などに使われる危険性も高くなり、災害時に被害を拡大させる恐れがあるほか、まちの景観にも悪影響をもたらします。古い空き家がたくさんあるまちは印象が悪くなり荒廃が進むことに繋がります。空き家率の増加は深刻な問題なのです。

 空き家増に対する国や自治体の対策とは

 「急増する空き家の除去や活用を推進すべき。」2016年度に閣議決定された住生活基本計画の中で政府は、空き家対策の考え方についてこのように示しています。その具体的な成果目標は、2025年時点で空き家を400万戸に抑えること。2015年時点の820万戸から半分以下に抑える目標を掲げているのです。

 こうした中、各地方自治体も住宅の除去(いわゆる解体)について補助金を出す制度や倒壊の恐れがある家屋の除去を条例で定めるなど対策に乗り出しています。

 自治体の対策は機能していない?

 近い将来、住宅の3分の1が空き家となる可能性がある中で、行政が補助制度を設けたり、相談窓口を設置したりするなど様々な対策に乗り出していますが、その効果は十分だとは言えないようです。

 

 住宅の除去の案件について、「減ってはいないですが、増えているとは思えませんね。」そう話すのは愛知県で住宅・ビルの解体工事を行う株式会社力組の仲宗根朋希さんです。仲宗根さんは30代の若手ながら18年あまり住宅解体の業界に携わっています。

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 仲宗根さんが話すのは、住宅を除去(解体)した後のリサイクル処理の問題です。問題というのは処理のコスト。平成14年の建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)の施行以来、処理コストは増加し続けているといいます。

住宅除去後の廃棄物処理コストが上昇

 コストがかさむ理由は住宅を解体した後にでる廃棄物の分別項目の多さです。分別項目は主に17種類。(コンクリートがら、アスコンがら、その他がれき類、ガラス・陶磁器類くず、廃プラスチック類、金属くず、混合(安定型のみ)、石綿含有産業廃棄物(安定型品目)、建設汚泥、紙くず、木くず、繊維くず、廃石膏ボード、混合(管理型含む)、石綿含有産業廃棄物(管理型品目)、水銀使用製品産業廃棄物)

 それだけ住宅除去(解体)の現場で分別するコストがかかること加え、廃棄物の最終処分費用の相場は、そのほとんどの種類で価格が上昇傾向にあるということです。

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住宅の解体費用も増加 除去を妨げる要因か

 これに伴い、住宅の持ち主が解体する際の費用も増加。仲宗根さんによれば、10年ほど前は、木造住宅1坪あたりの解体費用は約2万2,000円が相場だったものが、最近では2万5,000円〜2万8,000円に増えているそうです。坪単価2万8,000円の場合、35坪の住宅で解体費用は約100万円となり、およそ30%の負担増ということになります。

 これでは、自治体が住宅除去に数十万円の補助金を出したとしても、空き家問題が顕著になる以前と解体費用の負担はほぼ変わらないか高くなっていることになります。

 こうした現状に仲宗根さんは「処理コストが増えている分を、解体費用に上乗せするには限界があり、利幅が小さくなっています。解体をしている現場で、見積もりよりも処理コストの高い廃棄物が出て、マイナスになるなんてこともあるのです。」と悲痛な声をあげます。

 処理が複雑になっていることで、業者は住宅に使われている石膏ボードや瓦などの廃材に気を使うほか、処理コストの高い材料が使われている住宅除去には、さらに高い費用がかかるようになっています。

 住宅除去を担う人手が不足

 こうした中で、さらに深刻になるのが解体業者の人手不足です。真夏は炎天下、寒い冬でも暖房のない解体現場での作業は厳しいものになります。それに利益を捻出するために工期を短くせざるを得ず、現場の環境はさらに悪くなる一方。ここ数年で解体現場を担う人材の高齢化や不足の状況が深刻になっているのです。

 さらに廃棄物の処理が厳密になったことで、人力作業の割合が増えていることも、この仕事が敬遠される要因です。建設リサイクル法施行以前の住宅除去では、重機を使って解体し、その後に廃棄物を分別するのが一般的でした。

 しかし、処理の分別がしっかり決められてからは、複数種類の廃棄物が混ざった状態のものは「混合」と分類され、処理コストが大幅に高くなりました。これでは利益が出ないため、瓦であれば瓦、木材は木材と一つの材料ごとに解体をしていく方法にせざるを得なくなったといいます。こうした解体方法は重機の使用に限界があり、人の手に任せるしかない状況なのです。

 仲宗根さんは「住宅解体のニーズはあるし、将来的にも大幅に減ることは考えにくい。しかし、人手がいるかどうかが心配だ。」と話します。

 住宅の除去を進めるためには業者への支援や技術革新が必要

 「人手不足で工期が短いために、人材への教育が進まず、さらに現場での作業効率が悪くなっています。」人手不足の課題に直面する中で、仲宗根さんが語るのは、教育も十分にできない現状。こうした中で、住宅解体業の技術革新が必要だと話します。

 プラントやビルなど大きな建造物を対象とした解体工事では、3Dレーザーを用いた計測技術の導入やITを用いた解体シミュレーションを取り入れるなどの技術革新が進んでいます。しかし、一般住宅の規模ではここ数年で作業の方法は変わらず、重機や人の手での作業がメインです。

 仲宗根さんは現場での作業効率を高めるために、重機のシミュレーターを使った作業員への教育や、ドローンを用いた正確な現場把握、ロボットスーツ やアシストスーツを用いた作業員の負担軽減などができないかと模索をしています。

 しかし、そうした技術革新は事例が見当たらない上に、利幅がぎりぎりな状況。「そう簡単には進まない」とも話します。

 

 空き家問題で住宅の除去をスムーズに進めることが必要とされるいま、住宅の解体作業を効率化するためには業者の努力だけでは限界がありそうです。

 仲宗根さんは建設技術の展示会や地元企業などに出向いてリサーチしながら、住宅解体業の技術革新の必要性を訴えつつ模索を続けるということです。